消滅
時効
主文
1被告は,原告Aに対し,被告が同原告に対して金662万9675円を支払わなかったときは,別紙物件目録1の土地の持分6分の1について,平成12年11月23日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。2被告は,原告Bに対し,被告が同原告に対して金662万9675円を支払わなかったときは,別紙物件目録1の土地の持分6分の1について,平成12年11月23日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨(1)被告は,原告らに対し,別紙物件目録1記載の土地につき,遺留分減殺を原因として,各自6分の1の割合による所有権一部移転登記手続をせよ。
(2)主文第4項と同旨。
2請求の趣旨に対する答弁
(1)主位的答弁
ア本件訴えを却下する。
イ訴訟費用は原告らの負担とする。
(2)予備的答弁
ア原告らの請求を棄却する。
イ主位的答弁(1)イと同じ。
第2当事者の主張
1本案前の答弁(1)訴外Cは,別紙物件目録記載1の土地(以下,「本件土地」という。)を所有していた。
(2)Cは,平成9年7月7日,「Cは,被告に対し,本件土地を相続させる」との公正証書遺言(以下,「本件遺言」という。)をした。
(3)Cは,平成11年12月31日,死亡した。
(4)原告ら及び被告は,Cの子であって,3分の1ずつその地位を相続した。
(5)特定の相続財産を特定の相続人に「相続させる」との遺言がある場合,特段の事情がない限り遺産分割の方法の指定である。
したがって,相続の対象となる特定財産は,相続開始と同時に相続財産から離脱し,かかる特定財産に対する減殺請求がなされると,その減殺請求の結果,共有関係が生じるが,その共有関係は物権法上の共有関係となる。
そして,共有関係の解消は,遺留分減殺を原因とする移転登記請求によるべきではなく共有物分割請求によるべきであるから,本件訴えは不適法であり,却下することを求める。
2本案前の答弁に対する認否
(1)本案前の答弁(1)(2)(3)(4)は,認める。
(2)同(5)については,争う。
3請求原因
(1)本案前の答弁(1)(2)(3)(4)と同じ。
(2)本件遺言は,包括遺贈(民法964条)でないとしても,遺言者の指定した分割にしたがえば被告が全遺産を相続することになるのであるから,分割方法の指定と同時に法定相続分と異なる相続分の指定もなされたとみなされる。
そして,相続分の指定も遺留分に関する規定に反することはできない(民法902条)から,遺留分減殺の対象となる。
(3)被告は,本件土地につき,登記名義を有する。
(4) 原告らは,被告に対し,平成12年11月23日,遺留分減殺の意思表示をした。
(5)よって,原告らは,被告に対し,遺留分減殺請求権に基づき,原告らに対する各自6分の1の割合による所有権一部移転登記手続をするよう求める。
4請求原因に対する認否,反論
(1)請求原因(1)(3)(4)は,認める。
(2)同(2)が遺留分減殺の対象となることは争う。
特定の相続財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされ,その遺言の趣旨が,当該財産を当該相続人に単独で相続させるという遺産分割の方法が指定されたと解される場合には,遺贈ではない以上,遺留分減殺請求の対象とはならない。
また,遺産分割の方法が指定されたと解される場合には,遺言者の死亡と同時に当該財産の権利が当該相続人に移転することから,その段階で当該財産は相続財産から外れ遺産性を失う以上,遺留分減殺請求の対象とはならない。
5抗弁(価額弁償)
(1)本件土地の価格は,平成14年2月7日当時,金3977万8050円である。
(2)Cは,被告の子訴外Dに対し,平成9年1月1日,以下の約定で,本件土地を貸し渡し,その賃借権の価格は,抗弁(1)の当時,金2784万4635円である。
賃借人C
賃貸人 D
賃料 D及び被告において,Cと同居してなす,C死亡までの療養・生活の介護
期限 定めない
(3)本件土地には,債務者をD,その妻E,債務額を2200万円,被担保債権割賦弁済期間35年が設定されているが,その抵当権の評価は,ホフマン係数が19.9であることを考慮すると,110万5527円である。
(4)被告は,原告らに対し,平成13年9月6日,第1回弁論準備手続において,各自金180万4648円の価額弁償をするとの意思表示をした。
6抗弁に対する認否
(1)抗弁(1)は,認める。
(2)抗弁(2)は,否認する。
(3)抗弁(3)は,否認する。
理由
第1本案前の答弁について
1本案前の答弁(1)(2)(3)(4)については,当事者間に争いがない。2同(5)について
(1)遺言の解釈について
まず,「相続させる」旨の遺言の解釈について検討する。
特定の相続財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合,その遺言は,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該財産を当該相続人に単独で相続させるという遺産分割の方法が指定されたものと解すべきところ(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁),本件において後述する認定事実の下では,Cの遺言書の記載からは,被告に対する遺贈であることが明らかとは認められないし,また遺贈と解すべき特段の事情も認められないから,本件土地を被告に単独で相続させるという遺産分割の方法が指定されたものと認められる。
(2)共有物分割手続によるべきとの主張について
次に,分割の対象となった特定の相続財産は遺留分減殺請求の結果,物権法上の共有となるから,共有物分割手続によるべきであって,遺留分減殺請求による本件訴えは不適法であるとの主張について検討する。
特定の財産につき特定の相続人に「相続させる」との遺言がなされた場合に遺留分減殺請求がなされると,減殺請求者と当該財産を相続した当該相続人とは,かかる財産につき物権法上の共有関係になると解するのが相当である。
そうすると,かかる財産を現に分割する場合には,物権法上の共有物分割手続によるべきである。
しかしながら,本件において原告らは,本件土地の分割まで請求している訳ではない。
あくまで,遺留分減殺請求権を行使することにより原告らと被告とが本件土地を共有することを前提として,持分についての所有権移転登記を求めるに止まる。
そして,物権共有関係にある当事者間において,その分割によるその関係の解消を求めることなく持分の所有権移転のみを求めうることは,処分権主義からして当然の帰結である。
(3)結論
以上より,被告の主張は本案前の答弁としては理由がなく,本件訴えは適法である。
第2請求について
1請求原因(1)(3)(4)については,当事者間に争いがない。2本件遺言が遺留分減殺の対象となるか。
(1)遺贈ではないとの主張について
民法1031条は,遺留分減殺請求の対象として遺贈及び相続開始前1年間の贈与を規定する。
かかる規定を形式的に見るのであれば,被告の主張するように遺産分割の方法が指定された場合,当該財産は,遺贈ではなく相続によって当該相続人に承継されるのであるから,遺留分減殺請求の対象にはならないようにもみえる。
しかしながら,かかる主張は,相続分の指定は遺留分に関する規定に反することはできないとする民法902条に反し妥当ではない。
けだし,法定相続分を超えて遺産分割の方法が指定された場合,同時に相続分の指定がなされたものと解される結果,遺産分割方法の指定も,遺留分に関する規定に反することはできないという民法902条の制限に服するからである。
また,被告の主張は,遺留分制度の趣旨を潜脱させる解釈であって,この点からも妥当ではない。
遺留分制度の規定は相続人の保護をその趣旨とするところ,被告の主張に従えば「遺贈する」との遺言ではなく「相続させる」との遺言をすれば遺留分規定に反するような相続財産の処理も可能となってしまい,相続人を保護するために認められた遺留分制度の趣旨を潜脱させることになってしまう。
さらに,共同相続人間で相続財産を配分するに際し,遺言者の意思によって法定相続分に変更を許すものとしては,相続指定,遺贈及び遺産分割方法の指定の3つがあるところ,相続指定の場合は民法902条により,遺贈の場合は民法1031条により遺留分規定の制限に服せしめるにもかかわらず,遺産分割方法の指定の場合にのみ,遺留分規定の制限に服せしめないとすることに合理性を見出すことはできない。
法は,遺言者の意思を尊重して法定相続分に変更を加えることを認めつつも,遺留分という枠を設けているのであって,この趣旨は遺産分割方法の指定の場合にも何ら変わることはない。
そうすると,遺産分割の方法が指定された場合も,民法902条,遺留分制度の趣旨等からすれば,遺留分減殺請求の対象となると解するのが相当である。
このように解したとしても,上記判例(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁)は,「相続させる」旨の遺言の趣旨を遺産分割の方法が指定されたと解すべき場合であっても遺留分減殺請求の対象となることを否定するものではないから,上記判例に矛盾するものではない。
(2)遺産性を失うとの主張について
遺留分減殺請求とは,相続財産から離脱した特定の財産を遺留分の範囲で取り戻そうとするものであるところ,遺産分割の方法が指定され相続と同時に当該財産が当該相続人に帰属したとしても,かかる場合にこそ遺留分減殺請求を認める実益があるのだから,被告の主張は失当である。
(3)結論
以上よりすれば,遺産分割方法の指定と解すべき本件においては遺留分減殺請求の対象とはならないという被告の主張は失当である。
第3価額弁償の抗弁について
1争いのない事実抗弁(1)については,当事者間に争いがない。
2賃貸借契約の成否
(1)被告の主張する事実関係を前提としても,C死亡後現在までの土地の使用に対する賃料ないし対価の主張はないから,それは性質上,賃貸借契約とは認め難い。
(2)また,甲第1号証から第9号証,乙第1号証,乙第2号証及び弁論の全趣旨によっても,Cの生前の本件土地の使用とDら及び被告の介護が対価関係にあるとは認め難い。
(3)かえって,上記各証拠によると,以下の事実が窺える。
アCは,Fと,昭和26年3月16日,婚姻し,両者の間には,被告(昭和13年11月19日生),原告A(昭和15年11月30日生),原告B(昭和19年2月19日生)の3人の子がいた。
イFは,昭和42年ころ,本件土地及び別紙物件目録記載2の建物(以下,「旧建物」という。)を購入し,そこにCと共に居住した。
本件土地及び旧建物の所在地は,被告の居住地の近隣であった。
Fは,昭和46年9月16日,死亡した。
本件土地及び旧建物は,Cが相続した。
Cは,Fが死亡した当時,原告Aの家族と旧建物で同居していたが,原告Aは,同年末ころ,原告Aの家族と共に旧建物から転居し,Cは,旧建物で一人暮らしを始めた。
ウ被告及びその夫Gは,昭和56年ころ,兵庫県芦屋の分譲地を購入する計画を立てた。
その資金には,当時,被告らが居住していた土地・建物及びCが居住していた本件土地・旧建物を売却して得られる金員をあてることにし,被告らは,当地において,Cと同居することを希望した。
しかし,経済的理由により,かかる計画は実現しなかった。
エCは,昭和63年2月,脳梗塞で入院した。
さらに,平成3年3月ころには,脳血栓で,平成5年ころには,すい臓腫瘍で,入院した。
Cは,度重なる脳梗塞,脳血栓により体の右側の自由が利かなくなった。
そこで,Cの日常生活,たとえば通院の付き添い,食事,風呂,洗濯などの世話,介護については,もっぱら,被告がこれにあたった。
オ被告の次男であるD(昭和44年1月4日生)は,平成6年ころ,兵庫県明石市にあるマンション(以下,「本件マンション」という。)を購入した。
Dは,平成7年2月,訴外Eと婚姻し,本件マンションに居住した。
カ平成7年1月,阪神淡路大震災が発生した。
Cは,旧建物の水道,ガスが止まったため,原告A方に約1か月間,身を寄せた。
Cは,旧建物に戻った後,被告に対し,旧建物の建て替えを希望する旨,述べるようになった。
被告としては,Cが一人暮らしをしていることから,昼間は面倒を見ることができるとしても,夜間に不測の事態が発生するのではという心配があった。
とはいえ,被告が,本件土地に新しく建物を建て,Cと同居することは被告の経済状況からして困難であった。
また,Cも住み慣れた場所を離れて,被告と同居することは望んではいなかった。
キそこで,被告は,Dに対し,本件マンションを売却し,その資金をもって,旧建物を取り壊した後,本件土地上に新しく建物を建て,そこにD夫婦及びCの3人で同居することを提案した。
かかる提案に対し当初は反対していたDであったが,被告の説得により,熟慮の末,これを受け入れることにした。
ク平成9年1月1日,被告宅に正月を祝うため,C,被告夫婦,D夫婦等が集まった。
その際,CとDは,旧建物を取り壊し,Dが本件土地上に新しく建物を建て,CがDに対し本件土地の使用を認めることに合意した。
また,両者は,C及びD夫婦が,その建物で同居することに合意した。
そして,C,D及び被告の三者は,D及び被告とで,Cの介護にあたることを約し,その見返りとして,Cは,被告に対し,本件土地を相続させることを約した。
ケCは,平成9年7月7日,明石公証役場において,本件土地を被告に相続させるという遺言を作成した。
コ Dは,平成9年9月ころ,本件土地上に,別紙物件目録3記載の建物(以下,「新建物」という。)を建てた。
D及びEは,新建物の建築にあたり,金融機関から金銭を借り受けた。
Cは,上記D及びEの債務を担保するため,住宅金融公庫(債権額1550万円),年金福祉事業団(債権額650万円)及び年金福祉信用保証株式会社(債権額1100万円)のために本件土地に抵当権を設定し,神戸地方法務局平成10年5月18日受付第21893号,同日受付第21894号の抵当権登記がなされた。
サCは,D夫婦と,平成9年9月ころ,新建物で同居を始めた。
新建物の近隣に居住する被告は,毎日のようにCを訪れ,Cの食事を作ったり通院に付き添ったりするなどして,全般的な介護にあたった。
シCは,平成11年12月31日,死亡した。
ス まとめ
上記のように,C,D及び被告の間では,D及び被告がCを介護するが,その見返りとして,Cが被告に本件土地を相続させるという合意がなされたと窺える。
(4)そうすると,介護と対価関係にあるのは被告に対する本件土地の相続であると窺え,介護と土地使用とは対価関係にあるとは認められないから,価額弁償額の算定において,賃借権の存在を考慮することはできない。
なお,介護と土地使用とが対価関係にない以上,被告が指摘する東京高判平成2年7月16日判例時報1358号101頁は本件と事案を異にするから,採用することはできない。
3抵当権の評価
(1)上記のように,本件土地には,D及びEの債務を担保するために,抵当権が設定されている。
そこで,価額弁償の額を算定するに際し,物上保証の趣旨で設定された抵当権をどのように評価すべきかが問題となる。
(2)この場合,目的物の価格を算定する際,被担保債務の債務者が破産するなどして求償権の行使が不可能であることが明らかであるなどの特段の事情がある場合は格別,原則として,抵当権を考慮すべきでないと解するのが相当である。
けだし,仮に抵当権が実行されたとしても,相続人は債務者に対し求償権を行使することができる以上,抵当目的物の価額を算定する際,被担保債権の額については求償権によって観念的に補うことができるからである。
そうすると,本件において,被告が弁償すべき価額を算定するにあたっては,抵当権を考慮すべきではない。
4まとめ
(1)以上より,本件において価額弁償の額を算定するにつき,賃借権及び抵当権の負担について考慮すべきではなく,他の負担については主張がないから,単に本件土地の価格のみを算定基準にすべきである。
(2)そして,当事者双方ともに,相続債務及び他の相続財産については主張・立証しないのであるから,本件において原告らが侵害された遺留分の額は,各自本件土地の価格の6分の1と認められる。
(3)そうすると,本件の価額弁償の額は,以下の計算式により,662万9675円となる。
(計算式)
3977万8050円×1/6=662万9675円
(円未満切り捨て)
第4結語
以上によれば,原告らの請求は,口頭弁論終結前に,被告が,裁判所が定めた価額により民法1041条の規定に基づく価額の弁償をする旨の意思表示をしているから,口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上,被告がその額を支払わなかったことを条件として,認容することとし(最高裁平成6年同1746号同9年2月25日第三小法廷判決・民集51巻2号448頁),訴訟費用の負担については,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。自己破産のことなら「自己破産ドットコム」
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